現代アートのいろいろな芸術運動

現代アートのいろいろな芸術運動
【執筆者】

Febriyani Suryaningrum 

 

現代アートのあらゆる作品は、日常生活から近い問題、アイデア、経験に対する個人的な解釈から生まれます。

 

作品は、絵画、彫刻、インスタレーション、ビデオアート、心を揺さぶるような効果を与えるパフォーマンスまで、その形態がいろいろあることは珍しくはありません。

これらの作品はさまざまなモデルやメディアで登場しますが、特定のパターン、アプローチ、スタイルを通じて作品を認識することができます。このようなことを美術の世界では「芸術運動」という用語で広まっています。

 

ここでは、大衆文化と関係があるポップアートから、アイデアを優先的にメディアで表現するコンセプチュアルアートまで、現代アートのさまざまな芸術運動を紹介します。

 

また、これらの芸術運動を反映した作品を作成しているインドネシアのアーティストもここで見つけることができます。

 

現代アートのさまざまな芸術運動を理解することで、現代アートをより深く鑑賞できるようになります。もしかしたら自分の好みを最もよく反映したスタイルが見つかるかもしれません。

 

 

現代アートにおける芸術運動の種類

 

現代アートはアーティストが特定のメディア、スタイル、またはテクニックの制限を受けずに自由に探求できる、そして進化し続けるクリエイティブな分野です。

 

芸術において「運動」または「ムーブメント」という用語は、アーティストまたはアーティストグループが持つ特定のビジョン、テクニック、または価値観を反映した芸術的アプローチを指します。

 

正式なマニフェストから始まることが多いモダンアートとは対照的に、現代アートの運動はより有機的に現れることが多いものの、視覚的なパターン、主要なアイデア、そしてメッセージを伝える独特の方法を通じて認識することができます。

 

つづいては、世界的に人気のあるいくつかの現代アートの芸術運動の概要と作品例です。

 

 

1. 抽象表現主義

抽象表現主義は、第二次世界大戦後の社会政治情勢への反応として、1940年代から1950年代にかけてアメリカで発展し始めました。この運動では、主観的かつ自発的な感情表現が重視されています。

 

抽象表現主義のアーティストたちは、現実の物体の表現に縛られず、大きな筆使いや絵の具の飛沫、滴りなどのテクニックを使って劇的な効果を生み出す非具象的な構成を選んでいます。

 

この芸術運動の中心人物の一人は、ドリップペインティングのテクニックで広く知られるJackson Pollockです。有名な作品「Convergence」(1952年)の様に、Jackson Pollockは従来の方法では筆を使用しませんでした。

 

Jackson Pollockは棒や缶を使ってキャンバスに絵の具を垂らしたり、注いだり、投げつけたりするテクニックを好みます。このテクニックにより、線と色が混沌としながらも秩序立った形で織り合わさった作品が生まれます。

 

黄色、青、赤、白、黒などの色が重なり合うことで、強いダイナミクスなビジュアルが生まれ、見る人の深い感情的な反応を引き出してくれます。

 

インドネシアでは、Affandiの作品を通して表現主義の精神が生き続けています。

 

Affandiは、アカデミックな絵画技法とは異なり、チューブから直接絵の具をキャンバスに注ぎ、筆ではなく指で塗るという独特のテクニックを使っています。

 

このスタイルは、「Pengemis」(1974年)や「Potret Diri」(1981年)などの作品に見られるように、自発性と感情の強い印象を与えてくれます。

 

抽象表現主義の分野に多大な貢献をしたもう一人の人物は、Ahmad Sadaliです。

 

1953年に卒業したインドネシア、バンドン大学工学部のデッサン教師教育センター (現在のバンドン工科大学、美術・デザイン学部) の最初のクラスは、イスラムの精神性と現代的なアプローチを組み合わせた抽象絵画の先駆者として知られていました。

 

彼の代表作の一つ「Gunungan」(1971年)は、神と自然と人間の関係を反映した作品です。

 

この1平方メートルの絵画は、シンプルでありながら意味深い幾何学的な構成を特徴としています。対角線、葉の質感、そして上部の赤いアクセントを通して、Ahmad Sadaliは宗教的な瞑想を視覚形式で表現しています。

 

2. 社会主義リアリズム

社会主義リアリズムは、第二次世界大戦と大恐慌後の 1929年から1945年にかけてのアメリカの社会的、政治的状況への反応として生まれた芸術運動です。

 

この運動は、労働者階級のコミュニティや社会的弱者のグループが経験している社会的・経済的不平等や人種差別を浮き彫りにしています。

 

社会主義リアリズムのアーティストたちは、自分たちの作品が一般の人々、特にこれらの問題にかかわる人々にもっと親しみやすく理解しやすいものとなることを願って、苦しみ、闘争、生存などの日常の現実をありのままのことを作品に表していました。

 

1930年代、多くのアーティストがアメリカ政府の支援を受け、公共の建物にナショナリズムや民衆の生活を描いた壁画を制作しました。その目的は、単に空間を美しくするだけでなく、アートを通して力強い社会的メッセージを伝えることにもありました。

 

実際には、社会主義リアリズムのアーティストは、視覚的な奥行きを表現するために、レイヤーやグレージング、および「目を欺く」という意味のフランス語であるトロンプ・ルイユなどのテクニックをよく使用していました。このテクニックでは、光の錯覚を利用して二次元平面に三次元効果を生み出し、非常にリアルに見える絵画を生み出すことができます。

 

社会主義リアリズムの精神を描いた作品の一例としては、David Alfaro Siqueirosの絵画「Proletarian Victim」(1933 年)が挙げられます。

 

この作品は、裸で縛られ、頭部を銃撃されて処刑される中国女性を描いており、元々は「In Contemporary China」というタイトルが付けられていました。主人公の体に金箔が使われることで劇的な効果を生み出し、場面の感情的な緊張感を伝えています。

 

インドネシアでの社会主義リアリズムは、芸術を社会批判と抵抗のメディアとして用いたアーティストの作品もあります。その代表的な人物の一人がS. Sudjojonoです。

 

S. Sudjojonoは、PERSAGI(インドネシアグラフィックアーティスト協会)とSIM(インドネシア若手アーティスト)の創設者として知られています。この2つの組織は、より素直で現実的なインドネシア美術を発展させ、Mooi Indie(美しいインド)の美的アプローチを拒否することを目的として結成されました。Mooi Indieは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて発展した芸術運動です。この運動は、オランダ領東インドの自然景観に魅了されたヨーロッパのアーティスト、特にオランダのアーティストによって広められました。

 

Mooi Indie風の絵画は、美しく穏やかでエキゾチックな自然の風景を描いていますが、農民、労働者、村落の貧困層といった先住民の社会的現実を無視する傾向があります。S. Sudjojonoはこの美学に強く反対していました。

 

S. Sudjojonoの社会主義リアリズムの精神を代表する人気作品としては、「Di Depan Kelambu Terbuka」(1939年)、「Cap Go Meh」(1913年 - 1986年)、「Kawan-kawan Revolusi」(1947年)、「Mengungsi」(1950年)などがあります。

 

 

 

3. シュルレアリスム

シュルレアリスムは、芸術と文学の分野における革命的な運動の一環として、1924年にフランスの詩人André Bretonによって始められた芸術運動です。

 

この芸術運動のメインアイデアは、人間の心を厳格な論理と理性の制限から解放し、アーティストが夢、潜在意識、隠された直感の世界をより自由に表現できるようにすることです。

 

これを実現するために、シュルレアリストの芸術家たちは様々な独自の技法を生み出しました。その一つがフロッタージュです。フロッタージュは木や織り目のある布などの粗い表面を鉛筆や黒鉛で擦り、絵に展開できる模様を描くテクニックです。

 

グラッタージュというテクニックもあります。これはキャンバスから絵の具を削り取ることで、漠然とした予測不可能な形を作り出す技法です。どちらのテクニックもドイツのアーティスト、Max Ernstによって広く用いられました。

 

オートマティズムというテクニックもあります。これは、アーティストが考えることなく、まるで無意識に描くように、自然発生的に手を動かして描くテクニックです。結果はランダムに見えるかもしれませんが、実際は潜在意識の内容を反映しています。

 

複数のアーティストが、以前に作成された部分を見ずに人間の体の各部分を順番に描く、エキサイトコープスと呼ばれる共同制作のテクニックもあります。最終的に出来上がる作品は、現実の境界を打ち破ろうとするシュルレアリスムの精神に沿った、奇妙で、予想外の人物像になります。

 

この芸術運動では、日常的な物がしばしば非日常的なコンテクストで用いられます。象徴的な例としては、女性画家であり彫刻家でもあるMeret Oppenheimの作品「Object」(1936年)が挙げられます。

 

この作品は動物の毛皮で覆われたカップ、ソーサー、スプーンのセットを特徴としており、機能性と快適さに関する私たちの潜在意識の認識に挑発しています。

 

次に、有名な絵画「記憶の固執」(1931年)で知られるスペインのアーティスト、Salvador Dalíがいます。この作品は、時間の柔軟性と現実の相対的な性質の比喩として、想像上の風景の中で溶けていく時計を描いています。

 

インドネシアでは、シュルレアリスムのアプローチは、Agus Suwageの作品、特に「Malaikat yang Menjaga Hankamnas」シリーズにも見られます。

 

Agus Wageは宗教的要素、個人的な経験、社会批判を象徴的かつ多層的な視覚構成に組み合わせることで、文脈的でインドネシア特有のシュルレアリスムを表現しています。

 

また、Antino Restu Ajiの「Ethereal For Neothype」(2021年)や「Hiding From Reality」(2021年)といったタイトルの絵画など、インドネシアの若手アーティストによるシュルレアリスム的なアプローチの作品も数多く公開されています。

 

 

 

4. ポップアート

ポップアートは、1950年代半ばから1960年代にかけてイギリスとアメリカで生まれた芸術運動です。

 

この運動は、消費文化の成長とマスメディアの力の増大に対する反応、周囲の世界を新たな視点から見るよう大衆に呼びかけるものとして生まれました。

 

特徴から見るとポップアートは映画、広告、漫画、さらにはアニメキャラクターなどの人気のある要素を主な対象として使用する傾向があります。作品には、鋭い社会的・政治的批判を伝えるユーモラスで「奇抜な」側面がよく表れています。

 

その目的は、高級芸術と低級芸術の境界を組み合わせて、より幅広いコミュニティが芸術の世界に関与できる場を開拓することにあります。

 

ポップアートのアーティストたちは、より経済的に大量の作品を生産することを可能にするさまざまなメディアで作品を制作しています。芸術は排他的で、高価で、特定の層だけのものであるべきだという考えに対する批判でもあります。

 

Andy Warholはポップアート界で世界的に名が知られている人物の一人です。Andy Warholは「Campbell’s Soup Cans」(1961-1962年)や「Marilyn Diptych」(1962年)などの象徴的な作品で知られています。Andy Warholは繰り返しと量産のテクニックを用いて、消費主義の文化の中でいかに意味と独創性が失われるかを強調しました。

 

インドネシアでは、Eko Nugrohoの作品にポップアートのアプローチを見ることができます。刺繍、壁画、アニメーションなどをメディアとして使い、漫画のスタイル、ストリートアート、都市文化を組み合わせています。独特のビジュアルスタイルと印象的な色彩を通して、Eko Nugrohoは現代の社会政治的問題を新鮮でわかりやすい形で表現しています。

 

Hansel.22はポップアートの精神を体現し、その作品で注目に値するインドネシアの若手アーティストの一人です。作品「NONSENSE」(2022年)と「Was Reborn」(2022年)がMISSAO ARTのギャラリーでご覧になることができます。

 

 

 

5. アーバンアートとストリートアート

アーバンアートは、都市から生まれ、発展した現代アートの運動であり、コミュニティの生活、社会問題、建築、都市文化のダイナミクスを反映しています。壁画、インスタレーション、像、グラフィティ、公共空間でのパフォーマンスアート、さらには拡張現実などのテクノロジーを使うこともあります。

 

アーバンアートは一般的に合法かつ計画的に行われます。多くのアーバンアートのアーティストは、地域社会、市当局、あるいは芸術機関と連携し、長期的な影響を与える作品を制作しています。

 

これらの作品は都市再生プログラムの一部であることが多く、住民の意識を高め、公共空間を対話の場に変えています。

 

一方、ストリートアートとは、公共空間においてゲリラ的に匿名かつ無許可で創作されるアートのスタイルです。グラフィティ、ステンシル、ポスター、ステッカーアート、さらには都会の編み物など、様々な形で表現されます。

 

ストリートアートは、都市住民が抗議や希望、社会的な論評、あるいは単に個人的な表現を伝える静かな方法として知られています。強みはオープンであることと、誰でも作れることです。背景として学歴や展覧会への参加などは必要ありません。

 

ストリートアートは、時には破壊行為と見なされることもありますが、そのコミュニケーション力と美的感覚により、正当なアートスタイルとして認識されています。

 

アーバンアートとストリートアートは並んで、都市の壁を巨大で民主的なアートギャラリーに変えることができる集団運動になることがあります。

 


 

6. スーパーフラット

スーパーフラットは、2000年代初頭に日本で村上隆が展開した芸術運動です。

 

この芸術運動は、アニメ、マンガ、日本の消費文化の美学を、明るくフラットでカラフルな二次元のビジュアルのスタイルで融合しています。さらに、スーパーフラット」は現代の視覚文化の深みの喪失を批判し、ハイアートとポップカルチャーを結びつけています。

 

村上隆は、1993年に誕生した「Mr.DOB」というキャラクターや、微笑む花のモチーフなど、象徴的なキャラクターを生み出しました。人気作品は「フラワーボール(3D) 赤く染まれ! 」、「心から菊の五体投地—光琳—」、「DOB君と私」などがあります。

 

この運動は、Kevin Varianなど日本文化やポップカルチャーを探求したインドネシアのアーティストを含む若いアジアのアーティストにも影響を与えました。Kevin Varianがスーパーフラットや日本に興味を持つようになったのは、子供の頃に朝のアニメを見るのが好きだったことがきっかけでした。

 

 

 

7. テキストアート

テキストアートは、単語、フレーズ、または文章を主なメッセージ伝達をメディアとして使用する芸術運動です。この運動は、版画、絵画、インスタレーション、デジタルメディアの形をとることがあり、政治的、哲学的、または反省的な発言が含まれます。

 

Jenny Holzer はテキストアートの重要人物であり、「Truisms」(1977-1979年)や「Protect Me From What I Want」(1983-1984年)などの作品をLED、銘板、公共の建物、デジタルメディアで作品を作成しています。

 

テキストを使った芸術的アプローチは、インドネシア人アーティスト、LAMPURIOの作品にも反映されています。「Pasal Karet」(2020年)という作品で、社会状況、特に政治的慣行や不公平な法律の適用によって一般人の生活がますます疎外されている状況に対する懸念を表明しています。

 

 

 

8. ミニマリズム

ミニマリズムは抽象表現主義の思想の広まりとして1950年代後半にアメリカで発展されました。

 

この芸術運動は作品の形、色、線のシンプルさを重視します。過度な物語の負荷をかけずに、視覚的な静けさ、構造の繰り返し、そしてはっきりとした幾何学的構造に重点が置かれています。アーティストは作品の構成を作るために数学的なシステムをよく使用しています。

 

ミニマリズムは、1959年にFrank Stellaなどのアーティストがニューヨーク近代美術館で作品「Black Paintings」を展示したときに現れました。

 

次に、金属製の箱のインスタレーション作品で有名なDonald Juddもミニマリズムの先駆者の一人です。個人的な表現を排除し、空間と形状を通じて物体自体が語るような作品を生み出しています。

 

9. コンセプチュアルアート

コンセプチュアルアートでは、視覚的な対象物自体よりも、アイデアや概念が芸術作品の主な要素として位置づけられています。

 

この芸術運動は1960年代から1970年代にかけて発展し、文書、テキスト、図表、またはパフォーマンスという形として作品が生まれました。

 

Marcel Duchampは、コンセプチュアルアートの先駆者と呼ばれることが多く、彼の作品「Fountain」(1917年)は最初のコンセプチュアルアートの作品です。

 

次に有名なのはSol LeWittです。Sol LeWittはアートを手作業の技術や商業的価値に縛られることから解放したいという考えから作品を生み出していました。

 

インドネシアでは、Mella Jaarsmaはアイデンティティと政治的身体を探求するコンセプチュアルアートのアーティストとして知られています。現在ジョグジャカルタに住んでいるオランダ出身のMella Jaarsmaは「Hi Inlander!」(1999年)という作品で有名です。

 

この作品は、動物の皮で作られた衣装のインスタレーションを通じて、社会における固定観念や社会的アイデンティティを批判しています。

 

10. 新表現主義

新表現主義は、コンセプチュアルアートやミニマリストアートへの反応として1970年代後半から1980年代にかけて登場しました。

 

この運動は、感情的、自発的、身振りによるアプローチによる具象絵画の復活を象徴するものになっています。

 

この芸術運動の特徴は、伝統的な構成の拒否、荒々しい外観、印象的な色彩、荒々しい筆遣いなどが作品から見ることができます。

 

この芸術運動の重要人物の一人は、ニューヨーク出身の黒人アーティスト、Jean-Michel Basquiatです。Jean-Michel Basquiatは絵画の中でグラフィティ、テキスト、文化的シンボルを組み合わせて作品を生み出していました。「Untitled」(1981年)という作品は、人種、アイデンティティ、搾取といった問題を生々しい視覚的エネルギーで反映しています。

 

インドネシアでは、Heri Donoの作品にも同様のアプローチが見られ、表現力豊かなビジュアルスタイルを通じて社会批評、ユーモア、そして地元の文化的象徴性を作品に組み合わせています。

 

「Flying Angels」(1996年)というインスタレーション作品には、力強い表情と印象的な色彩を持つワヤン・オランの姿をした想像力豊かなキャラクターが登場しています。

 

これらは、今の現代アートを理解するためのベースとして役立つ、人気のある現代アートの芸術運動の一部でした。もちろん、上記のリスト以外にも、探求するのに興味深い芸術運動は数多くあります。

 

 

 

【参照元】

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